76.駆逐艦整備60隻の全貌

図1 駆逐艦“綾波Ⅰ型”

 

   
 1.綾波(あやなみ) IHI石川島 昭和50年(1975) 6月14日 竣工 横須賀
 2.巻波(まきなみ) 三菱長崎 昭和50年(1975) 6月24日 竣工 横須賀
 3.磯波(いそなみ) 横須賀工廠 昭和50年(1975) 7月9日 竣工 舞鶴
 4.大波(おおなみ) 神戸川崎 昭和50年(1975) 7月21日 竣工 舞鶴
 5.高波(たかなみ) 呉工廠 昭和50年(1975) 8月8日 竣工 佐世保
 6.浦波(うらなみ) IHI石川島 昭和51年(1976) 3月11日 竣工 佐世保
 7.敷波(しきなみ) 三菱長崎 昭和51年(1976) 4月5日 竣工
 8. 漣 (さざなみ) 横須賀工廠 昭和51年(1976) 4月25日 竣工
 9.珠洲波(すずなみ) 神戸川崎 昭和51年(1976) 5月10日 竣工 大湊
10.沖波(おきなみ) 呉工廠 昭和51年(1976) 6月15日 竣工 大湊
11.静波(しずなみ) IHI石川島 昭和52年(1977) 4月8日 竣工 横須賀
12.長波(ながなみ) 三菱長崎 昭和52年(1977) 4月9日 竣工 横須賀
13.荒波(あらなみ) 三井玉野 昭和52年(1977) 6月18日 竣工 舞鶴
14.早波(はやなみ) 日立舞鶴 昭和52年(1977) 6月25日 竣工 舞鶴
15.浜波(はまなみ) 神戸川崎 昭和52年(1977) 5月22日 竣工 佐世保
16.清波(きよなみ) 三菱長崎 昭和53年(1978) 4月18日 竣工 佐世保
17.岸波(きしなみ) IHI石川島 昭和53年(1978) 5月10日 竣工
18.藤波(ふじなみ) 三井玉野 昭和53年(1978) 5月23日 竣工
19.玉波(たまなみ) 日立舞鶴 昭和53年(1978) 5月28日 竣工 大湊
20.島波(しまなみ) 神戸川崎 昭和53年(1978) 6月11日 竣工 大湊

【要 目】
 基準排水量5,650㌧     満載排水量7,250㌧
 全長160m ×  幅16.7m × 吃水4.8(レドーム吃水8.9m)
 機関:ガスタービンLm2,500×4基(80,000馬力相当)2軸(可変ピッチペラ) 速力33㌩  航続距離15㌩にて9,000浬
 乗員:士官19名 +300名
【装備】
5吋自動砲 ×1基     4連装対艦ミサイル ×2基(予備なし) 
対潜ミサイル8連装アスロック×1基(36基)  
8連装近接防御ミサイル(シースパロ―) ×1基(24基)
短魚雷落射機 × 2基  HSS-2J対潜ヘリ ×2機
対潜音響探知装置VDS  6連装チャフ・フレアー発射機 × 4基
戦術情報システム装備=統合戦闘システム艦

本艦は対米戦で建造した駆逐艦・海防艦・護衛艦が1970年代になり退役時期を迎えるのに¬対応する為大量建造を計画された護衛艦であり、日本版“ノックス級”あるいは“スプルーアンス級”とも言える。基本的には対潜・対空の両方を一隻で解決しようというもので排水量も5,650㌧となり我が国最大の駆逐艦となった。60~70隻を建造する計画であったが、年間6隻を建造して10年間で全てを新造艦に換えるのは財政的にも難しく、20隻ずつ3期に分け15年間で時世に合わせて改良しつつ建造するという計画のもとに昭和47年(1972)から建造が開始された。基本計画はミサイル駆逐艦“澤風”型と巡洋艦“能代”型の改良型であるが、本級では対潜兵器の主軸をヘリにしぼり、これに伴う艦隊防御設備を搭載するものとなった。機関は本級で初めてガスタービンを採用することになりLM2000を装備した。上図は基本設計の初期案でありカスタービンを採用することからマックの採用をやめ、マストと太い煙突という従来の構成に戻っている。ヘリがSH-2からHSS-2Jに変わったことで対潜攻撃力は大幅にアップされ艦隊護衛艦として広範囲の守備に就くことが出来た。なをHSS-22Jは米国が完成にてこずっていたものを日本海軍が完成にまでこぎつけたヘリであった。計画時の本艦はヘリの格納庫の上にミサイルのイルミネーターを搭載し重心がかなり高かったが起工直前に上図のように変更された。使用実績は重心の高さの他はおおむね好評であり、日本周辺を守るべく各方面軍に配置され艦隊の中心となった。また、近接防御ミサイルは当初シーモーラーの搭載が予定されていたがこのミサイルが製造中止となったため後日装備の状態で完成し、昭和52年(1977)から最新鋭のシースパロ―を採用し搭載した。 本艦建造の時期が米海軍のスプルーアンス級駆逐艦のそれと重なるため比較されることが多いが技術交流が盛んであったため準姉妹艦といわれることが多い。建造所は工廠の民営化を促進するという当時の政策により横須賀→IHI石川島、呉→(IHI石川島)、舞鶴→日立、佐世保→佐世保重工(住友、三井共同)が運営することになった。このほか三菱長崎・神戸川崎・浦賀船渠・三井玉野等が艦艇の建造に携わった。

図2 計画時の“波級”


   図は計画初期後期の“波”級駆逐艦で後部ヘリ格納庫が大型化している。

図3 新型駆逐艦“綾波”改Ⅱ型“天霧(あまぎり)”の図


 

   
21.天霧(あまぎり) 三菱長崎 昭和54年(1979) 3月12日 竣工 横須賀
22.澤霧(さわぎり) IHI東京 昭和54年(1979) 4月28日 竣工 横須賀
23.夕霧(ゆうぎり) 日立舞鶴 昭和54年(1979) 5月8日 竣工 舞鶴
24.朝霧(あさぎり) 神戸川崎 昭和54年(1979) 6月6日 竣工 舞鶴
25.山霧(やまぎり) 三井玉野 昭和54年(1979) 6月18日 竣工 佐世保
26.幕霧(まくぎり) 三菱長崎 昭和55年(1980) 3月12日 竣工 佐世保
27.海霧(うみぎり) IHI石川島 昭和55年(1980) 3月22日 竣工
28.江霧(かわぎり) 日立舞鶴 昭和55年(1980) 4月5日 竣工
29.浜霧(はまぎり) 神戸川崎 昭和55年(1980) 4月11日 竣工 大湊
30.狭霧(さぎり) 三井玉野 昭和55年(1980) 4月23日 竣工 大湊
31.峰霧(みねぎり) 佐世保重工 昭和52年(1977) 4月8日 竣工 横須賀
32.谷霧(たにぎり) 三菱長崎 昭和56年(1981) 3月3日 竣工 横須賀
33.島霧(しまぎり) 三井玉野 昭和56年(1981) 4月2日 竣工 佐世保
34.清霜(きよしも) 日立舞鶴 昭和56年(1981) 4月9日 竣工 佐世保
35.初霜(はつしも) 三井玉野 昭和56年(1981) 4月18日 竣工
36.白露(しらつゆ) 浦賀船渠 昭和56年(1981) 5月10日 竣工
37.瀬戸霧(せとぎり) 佐世保重工 昭和57年(1982) 3月13日 竣工 大湊
38.春霧(はるぎり) 三菱長崎 昭和57年(1982) 3月27日 竣工 大湊
39.野分(のわき) IHI東京 昭和57年(1982) 3月30日 竣工 横須賀
40.稲里(いなさ) 日立舞鶴 昭和57年(1982) 4月7日 竣工 横須賀


【要 目】
 基準排水量5,850㌧     満載排水量7,450㌧
 全長160m ×  幅16.7m × 吃水4.9ⅿ(レドーム吃水9.0m)
 機関:ガスタービンLm2500×4基(80,000馬力相当)2軸(可変ピッチペラ) 速力33㌩  航続距離15㌩にて9,000浬
 乗員:士官19名 +300名
【装備】
5吋自動砲 ×1基(600発)  3吋自動速射砲 × 2基(各1,000発)
4連装対艦ミサイル火龍ⅢA×2基(8発・予備なし)
対潜ミサイル8連装アスロック×1基(16基) 
8連装近接防御ミサイル(シースパロ―)× 1基(24基)
短魚雷落射機 × 2基   HSS-2J対潜ヘリ ×1
対潜音響探知装置VDS  6連装チャフ・フレアー発射機 × 4基
戦術情報システム装備=統合戦闘システム艦

綾波型を20隻建造した後荒天時の動揺が要注意となり改Ⅱである“霧級”はヘリ甲板を撤去して上甲板をヘリ甲板にすることとなった。この位置でも波をかぶることはなかったため以後第1甲板を直接ヘリ甲板とすることになった。このため艦尾に搭載していたVDSの搭載場所が低くなり艦尾の形状を改修している。兵装では対艦ミサイルの射程距離が延長され500㎞~1,500㎞の射程が一般的になり本級搭載の対艦ミサイル“火竜Ⅲ型A”なども射程距離700㎞に延長された。また、機動部隊の構成も空母1又は2隻、巡洋艦(旗艦)1隻、本級(対潜型)4隻、対空艦3隻 潜水艦1隻、戦闘支援艦(給兵艦)1隻で1単位とするようになった。

図4 新型駆逐艦“綾波”改Ⅲ型“吹雪”の図


 

   
41.吹雪(ふぶき) 神戸川崎 昭和58年(1983) 3月21日 竣工 舞鶴
42.白雪(しらゆき) 三菱長崎 昭和58年(1983) 4月18日 竣工 舞鶴
43.初雪(はつゆき) 浦賀船渠 昭和58年(1983) 4月22日 竣工 佐世保
44.深雪(みゆき)) 佐世保重工 昭和58年(1983) 4月28日 竣工 佐世保
45.春雪(はるゆき) 日立舞鶴 昭和58年(1983) 5月5日 竣工
46.朝雪(あさゆき) IHI石川島 昭和59年(1984) 3月5日 竣工
47.峰雪(みねゆき) 三菱長崎 昭和59年(1984) 3月28日 竣工 大湊
48.松雪(まつゆき) 佐世保重工 昭和59年(1984) 4月4日 竣工 大湊
49.大雪(おおゆき) 三井玉野 昭和59年(1984) 4月22日 竣工 横須賀
50.綿雪(わたゆき) 浦賀船渠 昭和59年(1984) 5月15日 竣工 横須賀
51.堅雪(かたゆき) 三菱長崎 昭和60年(1985) 3月9日 竣工 舞鶴
52.粉雪(こなゆき) IHI石川島 昭和60年(1985) 4月21日 竣工 舞鶴
53.山雪(やまゆき) 神戸川崎 昭和60年(1985) 4月23日 竣工 佐世保
54.華雪(はなゆき) 佐世保重工 昭和61年(1986) 3月18日 竣工 佐世保
55.里雪(さとゆき) 三井玉野 昭和61年(1986) 4月27日 竣工
56.霙(みぞれ) IHI石川島 昭和61年(1986) 5月11日 竣工
57.霰(あられ) 浦賀船渠 昭和62年(1987) 3月19日 竣工 大湊
58.舞雪(まいゆき) 三井玉野 昭和62年(1987) 3月20日 竣工 大湊
59.氷花雪(しがゆき) 三菱長崎 昭和62年(1987) 4月3日 竣工 横須賀
60.水雪(みずゆき 神戸川崎 昭和63年(1988) 3月16日 竣工 横須賀


【要 目】
 基準排水量5,850㌧     満載排水量7,650㌧
 全長160m ×  幅16.7m × 吃水5.0m(レドーム吃水9.1m)
 機関:ガスタービンLm2500×4基(80,000馬力相当)2軸(可変ピッチペラ)速力33㌩  航続距離15㌩にて9,000浬
 乗員:士官19名 +300名
【装備】
5吋自動砲 ×1基     4連装対艦ミサイル ×2基(予備なし)
VLS(64セル・対空スタンダード36発・対潜アスロック16発その他16発
8連装近接防御ミサイル(シースパロ―) ×1基(24基)
近接防御機関砲20㎜CIWS × 2基    短魚雷落射機 × 2基
HSS-2J対潜ヘリ ×1機( 後にSH-60J)
戦術情報システム装備=統合戦闘システム艦

 建造開始以来実に14年の歳月をかけ本級の整備当たってきたが、上図はこのクラスの最終型であり完成形である。“波”級、“霧”級と40隻を装備したが対空防御が対空ミサイル艦の退役により不足することが予想され、本級の対空能力を強化することとなった。以前より海軍では各種ミサイルの垂直発射が研究さていたが異種のミサイルの混載が出来ず研究は中断していた。その時米海軍よりアスロックとスタンダードミサイルの垂直発射が成功したとの報が入り直ちに導入を決定、対潜魚雷アスロック発射機の位置にアスロック16発、スタンダード36発、シースパロー12発の3種類を垂直発射するVLSを装備した。これにより本級駆逐艦が艦隊護衛の主力になった。また“霧”級も1985年からアスロックを撤去しVLS搭載艦に改造された。射撃式装置(FCS)、戦術情報システム(C-41)、レーダー、ソナー、電子戦などの各種装備は建造年代により数種類のものが搭載されたが最終的には“雪クラス”に搭載した80式射撃式装置を始めとする各種装置を装備している。1980年から年間の竣工数が3隻に減ったがこれは新型空母の整備がここに入ってきたからである。この後艦隊防衛は複数目標の同時攻撃に対処することが課題となったがこれはイージスシステムの開発で対処することになる。駆逐艦はイージス艦へと進歩していく。