戦記物―架空戦記物に出てくる仮想艦・図面集

 本著は架空戦記物に出てくる『こんな船あったらな!』的な艦艇をまとめてみました。 纏めたと言うより勝手に創ったというのが本当なのですが…。最近ブームが少し遠のいた感じですが、 それでも新刊が出るとついつい手に取って買ってしまいます。この種の架空戦記物小説が大好きで 多数の著作を読みました。最初は"翼に日の丸"の川又千秋氏であり、次が荒巻氏の"紺碧の艦隊"、 "旭日の艦隊"と続き、子門蛍氏や羅門祐人氏の著作、その後横山信義氏、中岡潤一郎と続いています。 どなたが書いたものでも主人公の艦船が絵または図面になっていると頭の中にその艦影が浮かび、 よりリアリティーが増すことを経験しました。

 それを最初に体験させてくれた作者は後述する内田広樹氏でその後が横山信義氏でした。 方々の著作はまさに艦影が頭の中に入ると情景がこんなにはっきりと見えるのかという物語になっています。 読む前に表紙の絵や中の挿絵、図面の類を眺め想像をめぐらし、その艦型を頭に入れてから読み始めると 結果として物語が活きてくるのです。特にこれでまだ見たこともない架空の艦船などが登場するとわくわく します。最近出た和泉祐司氏の"帝国海軍激戦譜"は私の考えと構想が似ているのでびっくりして読ませて いただきました。遥士伸氏にも共通するところがあります。

 本著は以上のような私の読書遍歴に基づき架空、想像の艦艇をまとめたもので素人の発想そのものです。 ただ、"こんな艦があったらもう少しましな戦いが出来たのではないか…"と思ったことが根底にあります。 ですから、本著の中の艦型図は本人の創作が目いっぱい入っています。それから、基本になる図面は愛読書 「世界の艦船」から拝借しています。また、中学の頃からイズミアソシエーツ入会し、泉江三先生にも 大変お世話になり今回も"大淀"など旧海軍の図面をお借りいたしました。

 私自身は無類の「戦艦大和」好きですが、その次に好きな艦を具現化してくれた作者が内田広樹氏で、 彼が著作「砲煙の巨竜」の中で著した超甲巡"剱"や"鞍馬"は旧海軍が計画した巡洋戦艦B-65を基に したものでしょう、スマートな艦型であり何度見ても飽きません。また、同時に発表された防空軽巡"十勝" も素晴らしく、米海軍のアトランタやロアノーク(戦後完成)の対抗馬といえるでしょう。大戦中に用法の 変化からあまり貢献できなかった駆逐艦や軽巡を建造するよりこういった防空型巡洋艦を10隻くらい量産して いたら戦局も変わったのではないかと思っています。だからこの著作の中では10隻ほど建造してしまいました。 ただ、これらの脇役艦艇が活躍する場面は小説の中ではごく限られていることが少々残念です。結局、現実感 があまり湧いてこないからなのでしょうか。

 陽炎型や夕雲型駆逐艦や伊号潜の建造に携わっていた方々には申し訳ないですが、結果を見ると撃沈される ために造っていたようなもの、戦訓を活かしきれない陸海軍のあり方そのものが間違っていたのでしょう。 いかにせん戦闘の変化への対応が遅すぎ、時代を読み切れなかった軍隊であったと言えるのではないでしょうか。 明治期の先達が輸入とはいえ、当時の最新鋭兵器を必死に調達したのとはえらい違いです。
架空戦記物を著す多くの方々の根底には、建艦方針のそのものに歯がゆさを感じており、それを何とか改善したい という願望が在るように感じます。それは私も同じです。

 先日テレビで「山本五十六」を見た時、ロンドン軍縮条約以後の艦隊派と条約派の葛藤の中で山本の大親 友堀貞吉などが失脚させられる状況を知りましたが人事にも合理性がなくなっていたことが分かります。 また、ある程度まで開発に成功していた電子機器の開発中止、カタパルトなどの補助機器の開発遅延など、 やっておけばよかったのにと思うことが沢山あったことに驚きます。3D技術が1980年代に日本で基礎開発 出来ていたことと通ずるものです。日本人の習性なのかもしれません。

 しかし、昭和12年に建造された海軍艦艇はどれも素晴らしく美しく、しかも軍艦もまたゼロ戦のように 非常に丁寧に作られていた。「大和」は無論「翔鶴」や「大淀」「阿賀野」などこの年の計画艦はこんなに 丁寧に創るの?と驚くくらい丁寧に建造されている、このことは模型を作るとよく分かるのですが、昭和12年 の頃の造船技術は工員の技量も最高潮に達し、一枚の鋼板にしか見えないのにその中から鉄の桜花が引きぬける ほどの細工技量があったと聞きます、言葉は悪いのですが器用貧乏であり、丁寧すぎて量産という観点から は外れていってしまったのかもしれません。後年、松型を更に簡易、直線化した橘型でも速力などの性能は ほとんど変わらなかったと聞きましたが、このことを物語っているのでしょう。

 この本は戦記物ファンの私が物語をより楽しむために素人の想像と願望を織り交ぜて編集したものです。 "俺も私もそんな艦(ふね)考えたよ"とご意見が伺えれば最高に幸せです。なぜなら同志がいることが分かる からです。今後はこのページを皆様の発案やご意見を発表する場にしたいと考えております。

 今まで読んだ多くの戦記物はたいてい日本が少ない予算で、少数の精鋭艦を建造し、訓練や作戦で劣勢を 補うといった戦い方をして、最後には「大和」で全てを片づけるという形になっています。しかし将棋の様に 双方ほぼ同じ持駒で戦う、つまり米と拮抗する戦力を達成できるという想定で艦艇を描きたいのです。 経済的裏付けがあれば不可能なことではないはずです。満州における地下資源の採掘、インドネシアの独立と 石油資源の安定供給、南方からの安定的な資源の供給などがそれです。だからと言って急に原子力空母が登場 するなどという発想は勘弁してください。こういった前提を忘れないでこのページを楽しんで下さい。それから 文章が時々偉そうになっちゃうことがありますが、造船監になった気分の時そんな文章になってしまいます。 歳は食っていますがそんな偉そうな奴ではありませんのでその分差っ引いて読んでください。